それでも、「全然いい」は(多くの場合)誤用だ。

日本経済新聞 : なぜ広まった? 「『全然いい』は誤用」という迷信


「全然」とは、「全く」「一つ残らず」「あらゆる点で」と言った意味である。
で、「全然いい」と?
「全く・一つ残らず・あらゆる点で」→「いい」と言う全方位的で絶対的な肯定を与える覚悟が、貴方にはあるの?


例えば、貴方がデザインの作成を指示したデザイナーが、デザイン案を出して来たとする。
もしそこで貴方が「全然いい」と評価したら、貴方はもうそれ以降ダメ出し・修正指示はできなくなるものと考えて欲しい。


「全然いい! でも、この要素はもう少し目立たない扱いで」とか、
「全然いい! でも、もうちょっと高級感を出したいかなぁ」とか、
そーゆーのは一切無しだ。


だって、貴方はそれを「全く・一つ残らず・あらゆる点で」宜しいと評価したじゃないか。
それならもう、そのデザインはFIXした「弊社からのご提案」としてクライアントに示すべきだろう。


さて、それでも「全然いい」は貴方の意図通りの言葉だっただろうか。


これが、「全然問題無い」「全然平気」「全然大丈夫」だと話が異なる。
たとえ現状が「問題が残っている」「平気ではない」「大丈夫ではない」状況だったとしても、少なくともそれを言った本人は自分のレイヤーでその問題を吸収・解決し得る、そして「全く・一つ残らず・あらゆる点で」→「問題ない・平気・大丈夫」な状態にしてアウトプット出来ると信じて、そうする意思を持って言っているのだ。だから、これは「全然」と言う言葉を意図通りに使っている。ここに嘘や誤用は無い。
ゆえに、さくらちゃんは全然大丈夫なのだ。


それでも思いに反して解決できなかった時には、「大丈夫じゃねーじゃねーか! 判断が甘いんだよ。余裕のある内に相談しろ」と、軽くはたいてやるだけの事だ。
(べき論で言うなら、最初に「全然大丈夫」と言い出した時点で、念のため彼が抱えている問題の認識を確認しておくべきだろうとは思うよ。お仕事的にはね。)


だが、「全然いい」は概ね意図通りには使われていない。
ほとんどの場合、全然「全然」ではない場面で「全然いい」が使われている。
悪く言えば、嘘だ。


そこに入るべき言葉は、本当は「なみはずれて」「程度の差が明らかに」と言う意味の「断然」ではなかったか。
「(前に比べれば明らかに)いい」「(他の例や想定に比べて)いい」を意味しているのであれば、「全然いい」ではなく「断然いい」ではないか。


「全然いい」は、それが実際に用いられているほとんどの状況において誤用だと思う。
誤用だと気付いているから「無意味に『逆に』を連発する営業職」と同様に、その部分だけスルー(無視)して我慢してあげているのだ。
もし貴方が誰かから「この人の言葉は部分的に誤用により無意味になっているので、一部は無視してよい」と思われる事を不快に感じるのなら、自分の言葉の全てを相手に受け取って欲しいなら、今からでも遅くは無い。どうか、あまり軽い気持ちで「全然」を使わないでほしい。もう少し覚悟を持って使ってくれ。


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まぁ、そうは言ってもね。
お仕事以外の、つまり、プライベートな人間関係においてはね。
「全方位的で絶対的な肯定」をあげたくなる状況や、あげるべき状況があると思うんですよ。
でも、そーゆー時には、それを口にするだけの覚悟を持って言えますよね?